犬学⑧ 犬に必要なのは運動ではなく行動かもしれません
- 6月12日
- 読了時間: 3分
犬の行動不足を、人間は運動不足と呼んでいるのかもしれません
アルテミス通信第36号

はじめに
犬の話になると、
「大型犬には運動が必要です」
「若い犬は運動不足になります」
という言葉をよく耳にします。
確かに犬にも身体活動は必要です。
しかし私は最近、その「運動」という言葉そのものに少し疑問を持つようになりました。
なぜなら、人間と犬では体の構造も行動様式も大きく異なるからです。
人間と犬では体の使い方が違う
犬も人間も筋肉によって体を動かしています。
筋肉組織そのものに大きな違いはありません。
しかし運動能力を決めているのは筋肉だけではありません。
犬は四足歩行動物です。
体重は4本の肢に分散され、骨格や関節は効率よく移動できるように作られています。
さらに腱はバネのような役割を果たし、筋肉が生み出した力を無駄なく推進力へ変換しています。
犬が軽やかに走り、跳び、方向転換できるのは、筋肉だけではなく骨格や腱を含めた身体全体の構造によるものです。
人間は二足歩行であり、長時間座る生活を送っています。
そのため意識して歩いたり、筋力トレーニングを行ったりしなければ筋肉は衰えていきます。
しかし犬は違います。
立つこと、
歩くこと、
向きを変えること、
匂いを嗅ぐために姿勢を変えること、
休む場所を移動すること。
これらの日常行動そのものが全身運動になっています。
つまり、人間にとっての「運動」と、犬にとっての「日常行動」は、実は同じ役割を果たしているのです。
野生動物は運動のために歩きません
野生動物は運動のために歩きません。
狼も空腹になれば獲物を探しに移動します。
水を飲みに行き、仲間と行動し、縄張りを確認します。
しかし必要がなければ休んでいます。
私たち人間のように、健康維持や筋力維持のためにジョギングをすることはありません。
歩くことそのものが目的なのではなく、生きるための行動の結果として歩いているのです。
犬もまた同じ動物です。
本当に不足しているのは何でしょうか
私は犬に運動が不要だと言いたいのではありません。
大型犬にも若い犬にも十分な活動は必要です。
しかしその活動とは、単に長い距離を歩くことではないように思います。
行動学では、動物が本来持つ行動を発現できることが重要と考えられています。
犬であれば、
匂いを嗅ぐこと、
探索すること、
周囲を観察すること、
移動すること、
休息することです。
私はアルテミスで多くの犬たちを観察してきました。
その中で変化していく犬たちに共通して見られるのは、筋力の変化ではありません。
まず探索行動が増えます。
環境利用が増えます。
自発的な移動が増えます。
そして表情が変わり、行動が変わっていきます。
つまり変化しているのは筋肉ではなく、行動レパートリーなのです。
犬に必要なのは行動する機会
よく「運動不足だから問題行動が出る」と言われます。
しかし本当に不足しているのは運動でしょうか。
私は犬たちを観察する中で、
「犬の行動不足を、人間は運動不足と呼んでいるのではないか」
と考えるようになりました。
犬に必要なのは距離ではありません。
何キロ歩いたかでもありません。
自分の意思で行動し、
環境と関わり、
世界を知ることです。
犬は運動のために歩くのではありません。
世界を知るために歩いているのです。




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