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なぜ環境が変わると下痢をするのか

  • 6月3日
  • 読了時間: 5分

― 腸と自律神経、そして腸内細菌群の関係 ―


アルテミス通信 第32号 犬を知る①



■ はじめに


アルテミスで犬をお預かりしていると、環境に慣れ始めた頃や帰宅後に便が柔らかくなる犬がいます。


下痢というと病気を連想しがちですが、必ずしもそうとは限りません。


今回は犬の腸と自律神経、そして腸内細菌群の働きから、その理由を考えてみたいと思います。


■ 犬の胃は比較的丈夫にできている


犬は肉食動物を祖先にもつ動物です。


そのため胃酸は非常に強く、多くの細菌や異物に対して防御する能力を持っています。


もちろん何を食べても平気というわけではありません。


しかし人間と比べると、胃そのものはかなり丈夫な器官です。


一方で、環境変化の影響を受けやすいのは胃よりも腸です。


犬がホテルに来て緊張したり、引っ越しや旅行で環境が変わったりした時に起こる軟便や下痢の多くは、胃ではなく腸の反応として現れます。


■ 腸は「第二の脳」と呼ばれている


近年、腸には非常に多くの神経細胞が存在することが分かってきました。


その数は脊髄に匹敵するとも言われています。


腸は単なる消化器官ではありません。


脳と密接につながり、自律神経の影響を常に受けています。


人間でも、


  • 試験の前にお腹が痛くなる。

  • 旅行先で下痢をする。

  • 大事な会議の前に便意を感じる。


そうした経験があります。


犬でも同じことが起こります。


  • 新しい場所。

  • 知らない人。

  • 知らない犬。

  • いつもと違う生活リズム。


こうした変化を受けると、自律神経のバランスが変化し、それが腸の働きにも影響します。



■ 大腸の重要な役割


犬の大腸には重要な仕事があります。


それは便から水分を吸収することです。


小腸で消化・吸収された内容物は大腸へ送られます。


大腸はそこから水分を回収し、適度な硬さの便を作ります。


しかし緊張や興奮によって腸の動きが変化すると、水分を十分に吸収できなくなります。


その結果として軟便や下痢が起こります。


これは腸が壊れているわけではありません。


腸の機能が一時的に変化している状態なのです。



■ 腸内細菌群という見えない仲間たち


さらに腸の中には膨大な数の細菌が暮らしています。


これらは腸内細菌群、あるいは腸内フローラと呼ばれています。


細菌というと悪いものを想像しがちですが、多くは健康な犬にも存在する常在菌です。


彼らは、


  • 消化を助ける。

  • 栄養の利用を助ける。

  • 病原菌の侵入を防ぐ。

  • 腸の健康を維持する。


といった重要な働きを担っています。


つまり犬は自分自身だけで生きているのではなく、腸内細菌群と協力しながら生活している

とも言えるのです。


■ なぜ急な食事変更で下痢をするのか


腸内細菌群にはそれぞれ得意分野があります。


  • 肉や脂肪を利用するのが得意な細菌。


  • 炭水化物を利用するのが得意な細菌。


  • 食物繊維を利用するのが得意な細菌。


さまざまな種類が存在しています。


そのため、長年同じフードを食べていた犬に急に大量の肉を与えたり、逆に肉中心の犬に急に炭水化物を増やしたりすると、腸内細菌群がまだ十分に対応できません。


その結果として軟便や下痢が起こることがあります。


これは感染症ではなく、腸内環境が新しい食事に適応している途中の反応と考えることがで

きます。


■ 自律神経と腸内細菌群はつながっている


面白いことに、自律神経と腸内細菌群は別々に働いているわけではありません。


緊張やストレスによって自律神経が変化すると、腸の環境も変化します。


すると腸内細菌群のバランスにも影響が及びます。


逆に腸内細菌群の状態は腸の働きや神経活動にも影響を与えます。


現在ではこれを「腸脳相関」と呼んでいます。


つまり、


  • 環境が変わる。

  • 自律神経が反応する。

  • 腸の働きが変わる。

  • 腸内細菌群も変化する。


その結果として便に変化が現れる。


こうした流れが起こっていると考えられています。



■ ホテルより帰宅後に下痢をする理由


アルテミスでは到着直後よりも数日後に軟便になる犬がいます。


またホテル滞在中は問題なくても、帰宅後に下痢をする犬もいます。


犬は新しい環境で頑張って適応しています。


そして帰宅することもまた大きな環境変化です。


身体の反応は必ずしもその場ですぐに現れるとは限りません。


時間差で現れることもあります。


私はこれを異常というより、身体が環境に適応しようとする過程の一部として見ています。


■ おわりに


下痢は病気の名前ではありません。


身体のどこかで起きている変化が、便という形で現れた結果です。


もちろん治療が必要な病気もあります。


しかし環境の変化や食事の変化によって起こる機能的な下痢も少なくありません。


犬の身体は私たちが思っている以上に繊細です。


そして腸は環境や感情の影響を受けながら働いています。


便が柔らかくなった時、私はまずその犬がどのような状況に置かれているのかを考えます。


  • 食欲はあるか。

  • 元気はあるか。

  • 眠れているか。

  • 環境に適応しようとしているか。


便は身体からの大切な情報です。


しかしその情報を正しく理解するためには、便だけではなく犬全体を観察することが大切だと私は考えています。

 
 
 

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